家賃・マンション管理費滞納
家賃滞納への対策 1.迅速な対応
家賃の支払いが遅れだしたら借主にすぐ連絡!
1か月分程度の家賃滞納では、督促することで借主との関係がこじれるのを避けたい等の理由からすぐには動かないという貸主も少なくありません。しかし、家賃の支払いが遅れだしたら、借主にすぐに連絡を取ることが重要です。
というのは、借主と話をすることで借主に関する最新の情報を得ることができるからです。例えば、「給料日が変わってしまった」ということであれば、勤務先が変わっていることが考えられますし、「収入が減ってしまった」のであれば仮に今回の滞納が解消されても再び滞納が発生する可能性が高いと考えられ、事前に対策を取ることができます。
「少しくらいの遅れなら・・」というのが後々大きな問題になりかねません。滞納が発生したら迅速な対応が必要です。
家賃滞納への対策 2.最終目標は明け渡し
家賃を対応した借主はまた滞納する!
家賃を滞納した借主は、一旦は滞納を解消したとしても、その後も滞納する可能性が高いと言えます。家賃は住居という生活の最も基本的な部分を確保するための費用ですから、それを滞納するということは「支払わない」のではなく、「支払えない」状態にあると考えられるからです。
経済的に苦しい状況にあるので、すぐに改善される事態は考えにくいものです。数か月分の家賃滞納状態が数年間続いている、というご相談が多いのも、経済状態の改善の難しさを表しています。
そのため、一度でも家賃を滞納した借主に対しては、単なる支払い忘れ等の場合を除き、最終的には明け渡しを目標として対応することが必要です。
家賃滞納への対策 3.入り口の重要性
安易に入居者を決めるとその後大きな負担に…
空室は、特に経済的な問題から貸主にとっては可能な限り避けたい事態です。最近の経済状況を反映してか、好立地にもかかわらず借り手がなかなか見つからないという貸主の声をよく聞きます。「礼金なし」「フリーレント」等のサービスをつけるなど貸主の負担は増すばかりです。その負担を軽減するために手っ取り早い方法は入居の審査を緩めることですが、安易に入居者を決めてしまうと、その後の家賃の滞納、明け渡しなど後々大きな負担になりかねません。
現在の法律では、貸主が住居に関する賃貸借契約を簡単に解除することができないこと、強制執行を行う場合、貸主の金銭負担が大きいことを念頭に、後々のトラブル回避のために借主・保証人の属性を詳細に把握し、入居者の決定は慎重に判断する必要があります。そして、管理会社に任せきりにせず、貸主自ら入居希望者に会うなどして、その人となりを見ることも重要です。
賃料滞納を理由に明渡を求める場合
- 訴訟の提起
- 第1回口頭弁論期日(1ヶ月程度)
- 勝訴判決(1~2週間程度)
- 被告(借主)に対する判決の送達(2週間)
- 判決確定
- 強制執行申立て(1~5日)
- 執行官との打合せ(1~2週間)
- 催告期日(1ヶ月以内)
- 断行日
- 話し合いによる立ち退き
- 和解による立ち退き
最終目標は明け渡し
話し合いによる明け渡し
話し合いにより明け渡しを求める場合、主に次のことを借主と話し合って決めます。
- 賃貸借契約の解除の合意
- 明渡日
- 部屋にある家具の処分等
- 滞納家賃の支払方法
- 敷金(保証金等)の清算方法
- 原状回復費用の清算方法
- メリット
- 話し合いの結果、借主が自主的に退去するわけですから、貸主が余計な費用を負担する必要がなく、貸主の負担が軽減されます。
- デメリット
- 話し合いの内容については、合意書・確認書といった書面で残すことになりますが、仮に借主が約束の日に出て行かなかった場合、即強制執行に移ることができないため、訴訟を提起するなど時間がかかります。
強制執行による明け渡し
訴訟によって勝訴判決を取得し、執行官による強制執行を行う方法です。法的手続きのため、最終的に明け渡しという目的を達成することが可能です。
- メリット
- 法的な強制力を付与されるため、明け渡しという目的をほぼ100%達成することができます。
- デメリット
- 訴訟を提起してから勝訴判決を得るまで2か月程度、判決を得てから強制執行の申立てまで1か月程度、強制執行の申立てから断行日まで1か月以上と時間がかかるため、その間の家賃収入が得られません。
また、強制執行をする場合、運搬業者や鍵屋などに対する費用が数十万円かかるため、金銭的負担が大きくなります。
よくある質問
Q. 賃貸借契約書に、「家賃の滞納が発生した場合、貸主は借主に催告することなく解除できる」という規定がありますが、借主が家賃を滞納したら、即契約解除できるのでしょうか。
A. 家賃の滞納を理由に賃貸借契約を解除する場合、借主に対して滞納賃料を支払うよう催告をして、それでも支払われなかった場合に解除することができます。契約書に催告を要しない旨の記載がされている場合も同様ですので、まずは借主に対して催告をしてください。
なお、催告をせずに契約を解除できる場合もあります(長期間に渡って家賃を滞納している等)が、あとで無催告による解除の有効性が問題になることを考えると、催告をしておくことが好ましいでしょう。
Q. 家賃の滞納が3か月分以上はないと契約が解除できないと聞きました。どういうことでしょうか。
A. 最高裁判所は、賃料の不払いがあっても、それが「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとき賃貸人は解除することができない」と判示しています。つまり、賃借人に賃料の滞納が発生した場合でも、それが背信的行為と認められない何らかの事情がある場合には賃貸人は契約解除ができないということです。
これを「信頼関係破壊の法理」と呼び、賃貸借契約のように継続的な関係を前提とする契約においては、相互に信頼関係があることを前提として契約を締結している以上、それを解除するには当該信頼関係が破壊された状態にまで至っている必要がある、という考え方です。
この考え方から、現在の実務では、賃料の不払いを理由とする契約解除の場合最低でも3か月程度の滞納が生じていなければ、信頼関係が破壊されていると認められにくいため、法律上有効に解除できないと考えられています。
なお、当事者が合意によって契約を解除することはもちろん可能です。
Q. 借主から賃料を減額して欲しいという通知が届きました。これにはどのように応じたらいいのでしょうか。周辺の賃料相場と比較しても決して高いわけではなく、減額するつもりはありません。
A. 家賃について、経済事情の変更や周辺賃料相場の変動によって高すぎる、あるいは安すぎる場合、当事者は相手方に対して賃料について増減を請求することができます(賃料増(減)額請求権)。賃料の減額請求権は、これを当事者の合意(契約書の規定)で廃除することができません。
賃料減額請求を受けた場合、貸主は借主と家賃の額について協議をすることになりますが、借主が協議を拒否したり協議をしたがまとまらなかった場合は、借主側が裁判所に調整の申立てをする必要があります。なお、最終的に裁判所が正当な賃料額を判断するまで間、貸主としては自己が相当と認める額の賃料を借主に対して請求することができますが、その額が裁判所が正当と判断した賃料額を超える場合、その超える部分について年10%の利息を付けて返還しなければなりません。
なお、定期建物賃貸借契約の場合は、賃料の減額請求権を廃除することが可能です。
家賃10万円
借主「家賃を8万円にしてください」
貸主「10万円が相当と考えるので10万円を支払ってください」
借主「納得できないので調停を申し立てます」
↓
裁判所が賃料を9万円と決定
↓
貸主は1万円+家賃受け取りの日から年10%の利息を借主に返還する義務
Q. 定期建物賃貸借契約とはどのような契約ですか。普通の建物の賃貸借契約とは何が違うのですか。
A. 契約締結の際に、公正証書などによって契約書面を取り交わす場合、契約の更新がないことをあらかじめ定めることができます。契約の更新がない、契約期間が定まっている契約を定期建物賃貸借契約と呼びます。
通常の賃貸借契約の場合、当初の期間の満了によって契約は終了となりますが、貸主が更新を拒否するためには正当な事由(理由)が必要になるため、実務的には借主が望む場合は貸主は契約更新を拒否できないことがほとんどです。定期建物賃貸借契約の場合、このような事態を回避することができるため貸主にとってメリットがありますが、次の点に注意が必要です。
①貸主は、借主に対して、あらかじめ契約期間の更新がなく、期間の満了によって契約が終了することを書面を交付して説明する必要があります。
②期間が1年間以上の場合、貸主は借主に対し、期間満了の1年前から6か月前までの間に期間満了によって契約終了する旨の通知をする必要があります。
Q. 法定更新とは何ですか。
A. 法定更新とは、契約期間が満了する際に当事者に契約を継続する意思があると考えられる場合に、法律が契約を更新したことにしてしまう制度です。一方、当事者が合意によって更新することを合意更新といいます。法定更新は、次の場合に生じます。
①当事者が、期間満了の1年前から6か月前までの間に相手に対して更新しない旨の通知をしなかったとき
②①の通知をした場合でも、期間満了後に借主が使用を継続している場合に貸主が異議を述べなかったとき
そのため、貸主が期間満了をもって契約を終了しようとする場合は、6か月前までに更新しない旨の通知を行い、さらに期間満了後も借主が建物を使用している場合は異議を述べる必要があります。
Q. 更新拒絶の正当事由とは何ですか。
A. 貸主が期間満了にあたって更新を拒絶する場合、正当な事由が必要となります。正当な事由とは、貸主が更新を拒絶することを認めるべきと判断できるだけの事情です。正当な事由があるか否かは、法律上、建物の使用を必要とする事情、賃貸借契約のこれまでの経緯、建物の利用状況、貸主が提案した立退料等を考慮して判断されます。
つまり、貸主としては単に更新したくないという理由だけでは更新を拒絶することはできず、借主が更新を望めば更新されてしまうということです。もっとも、現在の実務においては、立退料をどの程度提示しているか・・・が正当事由の認定のための大きな割合を占めているように思われます。
Q. 借主が出て行く際に、古い家具などを残していったようです。これらの処分について、借主とは特に話をしていませんが、処分してもいいですよね。
A. 借主が家具などを置いていった場合でも、その物の所有者は借主となりますので、所有者でない貸主がこれを処分する権限はありません。貸主が処分するには、その所有権を譲り受けている場合や借主が所有権を放棄していることが明らかな場合などに限られます。なお、借主が置いて行ったアルバムを貸主が処分し、貸主に対して損害賠償が命じられ判例(東京地裁××××)があります。
Q. 裁判をする場合の費用はどのくらいかかりますか。
A. 裁判をするための費用は次のように分けられます。
Phaze1 訴訟提起~判決取得
収入印紙 ・・・ 建物の固定資産評価額が100万円までは10万円毎に1,000円,100万円を超える部分は20万円毎に1,000円(※明渡を求める部分がアパートの一室等の場合,その一室の専有面積で計算します)
郵便切手 ・・・ 4,000~6,000円(裁判所毎に異なります)
Phaze2 強制執行申立て~断行
予納金 6万円前後(裁判所毎に異なります)
搬送業者 20万円~(日当込み)
鍵業者 1万円~
※搬送業者については自分で依頼先を確保することも可能です。
その他、手続きを弁護士や司法書士に依頼すると、各手続毎に10万円~程度の費用が発生します。