不動産売買取引と偽造による詐欺被害防止策
2015.06.01更新
偽造及び詐欺事件
近年、東京司法書士会より、不動産売買取引における書類の偽造による詐欺事件の発生が多数報告されています。事例としては、当事者である売主になりすまし、買主より代金の交付を不正に受け利益を得ることを目的にしたものです。報告事例は全て未然に防ぐことができていますが、不動産購入を検討されている方にとっては売買代金を交付したのに不動産の所有権を取得できない可能性、不動産所有者にとっては知らぬ間に不動産の名義を変更されてしまう可能性があるかもしれません。
不動産売買取引手続
通常、不動産売買取引は、買主の売買代金の支払いと売主の登記必要書類の交付を同時にする決済手続を行います。登記必要書類としては不動産権利証(登記識別情報又は登記済証)や印鑑証明書等です。双方の手続き完了後、同日法務局に所有権移転登記を申請し、登記官による書面の審査を経て、後日登記が完了し買主名義の登記識別情報(権利証)が発行されることで取引が無事完了となります。
売主へのなりすまし
詐欺を働く者は、本人確認書類である免許証、保険証又はパスポート等を偽造し、登記必要書類を盗難等により不正に取得、もしくは偽造することで体裁を整え売主になりすまします。
司法書士の関与
一般的に、決済手続時には司法書士がその場に立会うことが多いです。売主本人の確認、登記必要書類の確認を入念に行うため、偽造された書面であれば見破ることができる可能性が高く、詐欺を未然に防ぐことができます。
また、売主になりすました者が盗難等により不正に取得した登記必要書類を交付してきた場合でも、書類自体は真正なものとなりますが、売主の本人確認書類の偽造、売主の決済手続時の挙動により不正を確認することができる可能性は高いです。
不動産購入予定者の被害防止策
不動産を購入される予定のある方は、司法書士を関与させることが最善の被害防止策となります。一般の方にとっては不動産取引自体なかなか経験することではありません。当事者のみで取引を完結させる場合にはやはり多くの問題が潜んでいると考えるべきです。例えば、売主が売り急いでいたりして考える時間を与えさせてくれないとか、売主本人と直接連絡が取れず代理人ばかりの対応になってしまう等といった問題です。高額な買い物となりますので注意をするに越したことはありません。
不動産所有者の被害防止策
不動産所有者にとっては、次の対策が考えられます。
①不動産権利証、実印及び印鑑カードの別々の保管
②不動産登記記録の定期的確認
③不正登記防止申出
④登記識別情報の失効申出
⑤売却の際の司法書士の関与
それぞれ説明すると、
①普段の生活において、不動産の不動産権利証や登記記録を確認する場面はめったにないと思います。定期的に不動産登記事項証明書を取得して権利関係の確認、不動産権利証の現物の確認をすることは大事です。盗難被害にあってからといってすぐに不動産名義が変更されてしまうわけではありませんが、被害に遭ってから日数が経過していると解決するまでに随分と労力を要する可能性が高くなります。
②権利証、実印及び印鑑カードを一緒に保管していると、まとめて盗難被害に遭います。全て登記必要書類ですので、別々に保管することで、どれか一つでも残れば被害も最小限で済みます。
③不正登記防止申出は、盗難被害に遭った場合、もしくは何らかの不正登記がされる可能性があると思った場合に、法務局に申出をすることにより、申出から3ヶ月間、対象不動産に登記申請がなされた場合、所有者に登記申請がされた旨の通知が来るという制度です。当該登記申請があった場合には通知が来るため何らかの対処をすることができます。但し当該登記申請自体が即却下となるわけではないので注意が必要です。
④登記識別情報については、失効の申し出をすることにより使えなくなります。失効の申し出をする理由に制限はありませんが、盗難被害にあった場合には真っ先に失効の申し出をするべきです。なお平成17年の不動産登記法改正以前に発行されていた登記済証は失効の申し出はできません。
⑤不動産売却時には、司法書士の関与をさせることにより、上記のような偽造による詐欺被害防止に一役買うことは間違いないでしょう。
不動産はとても高価なものです。不動産売買取引には司法書士を関与させることはもちろん、被害防止策を気に留めておくだけでも、万が一にも被害に遭うことを回避できるものと思います。