ビルのオーナー破綻時の保証金返還債務の承継
2009.09.16更新
ビルのオーナー破綻時の保証金返還債務の承継
企業経営において、ビルにオフィスや店舗を構えるには、ビルのオーナーと賃貸借契約を結ぶこととなります。賃貸借契約については、賃料さえ支払えれば企業活動上問題ないように思われますが、ビルのオーナーが破綻した場合には、当初は想定できなかった問題が浮上します。不景気によりオフィスビルの空き室が目立つ今では、ビルのオーナーが破綻する可能性も少なくありません。
具体的には、オーナーが破綻しビルが競売された結果、新オーナーに賃貸借契約が引き継がれた場合には、「保証金が返還されない」といった問題が出てきます。
ここで、保証金と同様に契約時に差し入れるものとして「敷金」があります。オーナーが破綻した場合には、敷金は返還義務が新オーナーに承継されるので、保証金も当然に新オーナーから返還されるように思われますが、現在の裁判所の考えでは、下記の判例のように、新オーナーには保証金返還義務が承継されないとされています。
■最高裁第一小法廷 昭和51年3月4日判決
事例 | 賃貸人は旧賃貸人との間で、「敷金及び保証金を契約時に差し入れ、賃貸借契約終了時に返還する」との建物賃貸借契約を締結した。当該契約の中で、保証金の返還については、一定の拘置期間経過後に10年間にわたり賃借人に返還されるとされていた。 被告である新賃貸人は競落によって建物の所有権を取得した。 |
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争点 | 建物賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者である賃貸人に差し入れられた保証金の返還債務が、建物の所有権を譲り受けた新賃貸人に承継されるか |
裁判要旨 | 建物賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者である賃貸人に差し入れられた保証金が、契約成立の時から5年間これを据え置き、6年目から利息を加えて10年間に返還する約定のいわゆる建設協力金であり、他に敷金も差し入れられているなど判示の事実関係のもとでは、建物の所有権を譲り受けた新賃貸人は、旧賃貸人の保証金返還債務を承継しない。 |
理由 | ①本件保証金は、返還約定に照らしても建設協力金として賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたというべきものであり、賃貸借の存続と密接な関係に立つ敷金とはその本質を異にするものである。 ②保証金の性格からして、新賃貸人が当然に保証金返還債務を承継する慣習ないし慣習法があるとは認めがたい。 |
つまり、保証金は、本事例のもとでは、賃貸借契約とは別個の金銭消費貸借契約であり、敷金とは性質が異なるため、新オーナーに保証金の返還債務は承継されないということです。
■敷金と保証金の対比
敷金 | 保証金 | |
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返還約定 | 契約終了時に賃借人に返還 | 契約時から一定期間据え置いた後に、数年にわたり賃借人に返還 |
金額 | 賃料の6ヶ月分 | 賃料の約30ヶ月分 |
性質 | 賃借人の賃料債務その他の賃貸借上の債務を担保する目的で賃貸人から賃借人に交付され、賃貸借の存続と密接な関係に立つ。 | 建物建築のために他から借り入れた金員の返済に充てることを主な目的とするいわゆる建設協力金であり、賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものである。 |
新所有者への承継 | 承継される | 特段の合意をしない限り、当然には承継されない |
ビルのオーナーが破綻してしまってからでは、高額な保証金の返還はあきらめざるを得ないでしょう。賃貸借契約のように企業の本業でない部分であっても、トラブルを未然に防ぐという方策が必要だったのです。
現代の企業活動においては、グローバル化に伴い、一つの取引で動く金員が高額となっており、何か問題が起きてからでは対処できない時代を迎えています。例えば、個人でも訴訟を利用しやすくなった今では、急に訴訟を提起されて、一気に赤字に転落する可能性があるのです。
つまり、時代は、何か問題が起きてから処理する「臨床法務」から、リスクを回避するために様々な問題を想定し対処しておく「予防法務」の時代へと移り変わっており、企業は、企業経営の姿勢を抜本的に変える必要性に迫られています。
このような予防法務は、企業の大小を問わず、企業の信用、信頼できる従業員、これらを守るために必要不可欠なものであるといえます。
そして、予防法務を考えたときには、幅広い知識、経験を有する専門家が必要不可欠です。
今回のテーマである「賃貸借契約の保証金」についても、私たち専門家は、日々、賃貸借に関するトラブルに対応しておりますので、どういった点が後から問題になるかといいう「リスクの所在」を予測し、的確なアドバイスをすることができます。
今回であれば、契約時に当事者間で保証金について特約を定めておくこと、保証金が高額であれば、保証人等の担保をつける必要があったといえるでしょう。
当事務所には、様々な資格を有する専門家が集まっており、幅広い知識と経験を事務所全体で備えております。これにより、一つの問題だけではなく、今後の企業活動についても「包括的な相談」に対応できるのが当事務所の強みです。何か問題が起きてからの相談だけではなく、当事務所では契約締結前の段階から、ご相談を承ることができます。
どうぞ、お気軽にご相談ください。