星野合同事務所

まだまだ続く、貸金業者と過払債権者との綱引き

2009.08.05更新

まだまだ続く、貸金業者と過払債権者との綱引き

これまで多重債務に苦しむ方々を救う為、今まで貸金業者と争ってきた先人の方々のお陰で、現在過払請求の現場は、幾多の判例により引直計算後、元金がマイナスになっていれば業者に対して利息も含めて請求できる権利として確立されてきました。

貸金業者は「みなし弁済」という規定が適用されると、利息制限法で定められた利率を超過する金額を有効に受領できる事が、法で定められています。しかし、多重債務問題の深刻化に伴い、又多重債務問題を扱う訴訟代理人等の働きにより、裁判所の判断が「みなし弁済」の規定ついて要件を厳格化するような判例が続いた為、事実上みなし弁済の規定が適用されうる業者は皆無となり、広く一般の方にも過払金の存在が知られる事となりました。
さらに一般に借主の方は法律の素人であることに対し、貸金業者は貸金業のプロであることを重く考え、貸金業者は「悪意の受益者」として発生した過払金に対して、特別な理由が無い限り利息を付さなければならないという判断が下され、過払請求事件は更に加速していくこととなりました。

みなし弁済の適用を受ける為の要件の一つに「支払の任意性」というものが定められています。たとえ高金利であっても、借主が自分から自発的に返済をしているなら有効な返済と認めましょうというものです。
しかし平成18年に最高裁は「支払が滞ったら一括で支払を請求されるいわゆる「期限の利益喪失特約」がある契約の下では、借主は一括請求を恐れて高金利の支払を継続しなければならないのだから、借主は高金利の返済を自発的に行ったとは到底いえない。」という画期的な判断により、みなし弁済を否定する判決を下しました。通常金銭消費貸借の契約条項に必ずと言っていい程、上記のような規定が盛り込まれているので貸金業者側にとってかなりダメージの大きい判決となりました。

この判決により貸金業者はこのままでは過払金はもとより、特別な理由が無い限りその利息金も請求されてしまう為、何とか利息の請求をされる「悪意の受益者」という立場からは逃れようと、様々主張を展開しました。
貸金業者の主張を要約すると、「最高裁の判断で「みなし弁済」が認められない事は不本意ながら仕方が無いかもしれないが、平成18年の判決が出るまでは、法律の解釈としては、その他のみなし弁済の要件を備えている場合、借主が自発的に支払っていればみなし弁済が認められるという事は、当時の考えでは常識であり、同様の意見が高名な学者や様々な学説でも大多数だったのだから、期限の利益喪失特約が契約書に盛り込まれていたとしても、貸金業者が「悪意の受益者」とまではいえない特別な理由になるはずだ。」と裁判所へ主張してきました。

裁判所はこれらの主張をほぼ認め、平成21年7月10日及び7月14日に、最高裁判所第二小法廷、及び第三小法廷から下記のような判決が下されました。

期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を否定した最高裁判所の判決以前に貸金業者が同特約の下で制限超過部分を受領したことのみを理由に、当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推定することはできない。

裁判所は、期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められない(当然に利息は請求できない)から、制限超過部分の支払について、それ以外のみなし弁済の適用要件の充足の有無、充足しない適用要件がある場合は、その適用要件との関係で貸金業者が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ、貸金業者が悪意の受益者であるか否かの判断ができない、として、今回の事件を更に審理をつくよう、高等裁判所へ差し戻しました。

この判決がどの様に解釈されるかは今後の解説、実務での運用を待つ事になりますが、貸金業者と過払債権者との綱引きはまだまだ続きそうです。