星野合同事務所

一般企業が農業参入するには-農業生産法人と特定法人貸付事業-

2008.09.08更新

一般企業が農業参入するには -農業生産法人と特定法人貸付事業-

先日、株式会社イトーヨーカ堂(東京都千代田区、代表取締役社長:亀井淳)が「農業生産法人セブンファーム富里」の設立を発表しました。同社は、今後3年以内に全国10ヶ所に農業生産法人を設立する計画で、収穫した農作物は、同社の店舗で販売することとしています。このように農業生産法人への出資等を通じ、食品企業等が農業参入する例は近年増えてきています。

耕作目的で農地の権利を取得する(例えば、農地の所有権を取得したり、賃借権の設定を受けたりすることをいいます)ためには、農地法の定める許可を得る必要があります。もっとも、一般企業である株式会社は、原則として、この許可を得られないので、農地の所有権を取得したり、賃借権の設定を受けることができません。この点、一般企業が農業に参入しようとする場合の例外的な方法としては、2つの方法が考えられます。一つは、「農業生産法人への出資を通じて参入する方法」であり、もう一つは「特定法人貸付事業を利用する方法」です。


「農業生産法人への出資を通じて参入する方法」について

農業生産法人は、農地法にその根拠が置かれており、上記の例外として、農地の権利を取得して、農業経営を行うことのできる法人のことです。株式会社等の法人が、農地法の定める一定の要件を満たし、農業委員会等の認可を得ることにより、農業生産法人となることができるのです。農地法の定める一定の要件には、1.事業要件 2.構成員(出資者)要件 3.役員要件があります。

1.事業要件 主たる事業が農業とその関連事業であること 2.構成員(出資者)要件 法人の出資者(株式会社の場合は株主)が原則として農業関係者等であること ※一般企業の出資は限定されている 3.役員要件 法人の役員(株式会社の場合は取締役)の過半数が農業関係者であること このような要件があるため、現在、他の事業を行っている企業自体が農業生産法人となることは極めて困難であるといえます。したがって、農業生産法人への出資を通じての農業参入、という間接的な方法とならざるを得ないのが現状です。

一般企業が農業法人への出資を通じて農業参入しようとする場合、特に注意すべきなのは、上記2.の要件に違反しないようにすることですが、現在の法制度上、農業生産法人へ出資することのできる企業は、農業生産法人と農産物の購入契約を締結している等、農業生産法人と一定の関係にある企業に限定され、さらにその出資割合は、企業1社あたり、農業生産法人の議決権の10分の1を超えてはならないとされています。これは、農業関係者以外の者の意思により、農業生産法人の経営が支配されることが、農業生産法人の制度趣旨から見て望ましくないことがその理由とされており、冒頭のケースでも、イトーヨーカ堂の出資比率は全体の10%となっています。

もっとも、農業者の高齢化が進み、全国に耕作放棄地が増加していく中において、世界的な食料価格の高騰を背景としたわが国の食糧自給力不足の問題を解消するために、一般企業の農業参入による国内農業の活性化への期待が高まっており、今後、規制緩和が進むことが予想されています。


「特定法人貸付事業を利用する方法」について

一般企業が農業参入するもう一つの方法として、特定法人貸付事業があります。

特定法人貸付事業とは、市町村等が、遊休農地を農地所有者から買入れまたは借入れし、一定の要件を満たす農業生産法人以外の法人に、リース(借入れ)方式で農地の権利を設定させることで、遊休農地の解消や発生防止を図ることを目的とする制度です。この特定法人貸付事業は、構造改革特別区域法の下で行われてきた、いわゆる「リース特区」を全国展開するものとして、農業経営基盤強化促進法により創設されたものです。

この制度を利用すれば、一般の株式会社やNPO法人といった、農業生産法人以外の法人が、直接農業参入することが可能です。

参入できる区域は、遊休農地が相当程度存在する、市町村が定めた区域に限定されますが、参入の要件は農業生産法人の認可の要件に比べ緩やかで、参入法人数も年々増加しており、平成20年3月現在で281法人が特定法人貸付事業により農業参入しています。

世界的な食料価格の高騰が続き、さらに輸入食料品の品質が問われる中で、わが国の食糧自給力不足という、食料安全保障問題上の非常に危険な状態を解消するためにも、早急に緩和への対策を講じられることを期待します。