一般社団法人等に関する相続税の改正と民事信託スキームについて
2018.04.19更新
平成30年度の税制改正で、特定の一般社団法人等に対する相続税の課税が強化されました。
特定一般社団法人等※1の役員(理事に限る。以下同じ)である者(相続開始前5年以内のいずれかの時において特定一般社団法人等の役員であった者を含む。)が死亡した場合には、当該特定一般社団法人等が、当該特定一般社団法人等の純資産額をその死亡の時における同族役員※2(被相続人を含む。)の数で除して計算した金額に相当する金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人等に相続税が課税されます。
改正の対象とされた例としては、一般社団法人等を設立して自らが理事に就任し、そこに自身が保有する資産を移転することにより、自身の相続発生時に子などが同法人の理事に就任することにより実質的に資産の承継も可能とするものです。
これに相続税が課せらない点を利用し、一般社団法人等へ資産移転させる相続税対策が横行されていましたが、本改正により、上記ケースでは一般社団法人等へ相続税の課税がなされることになりました。
※1「特定一般社団法人等」とは、次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいいます。
①相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
②相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
※2「同族役員」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が役員となっている会社の従業員等)をいいます。
なお、上記の改正は、平成30年4月1日以降の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続について適用されます。
ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以降の当該一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用し、平成30年3月31日以前の期間は上記、※1 ①の2分の1を超える期間に該当しないものとされています。
一方、これと分けて考える必要があるのが、一般社団法人を活用した民事信託スキームにおける受託者たる一般社団法人への信託による資産の移転です。
信託は当該資産の管理処分権(名義)と受益権(財産的価値)を分け、それぞれ別の者に帰属させることができる手法で、これにより高齢者等の財産管理の負担を軽減し、また、資産承継の道筋も予め定めておくことが可能になります。
ここで管理処分権を持つことになる受託者に一般社団法人を利用するケースが最近増加しておりますが、上記における受託者たる一般社団法人は信託組成時に財産の名義を取得しますが、受益権(課税の対象となる財産的価値)は別の者が保有している(一般社団法人に財産的価値は移転されていない)ので、いわゆる「相続税逃れ」を可能とする手法ではありません。
よって、本税制改正は民事信託における一般社団法人の活用を否定するものではないと考えられています。しかし,これも適法な信託行為(信託契約・遺言信託・信託宣言)により信託が組成されていることが前提条件となることは言うまでもなく,租税回避等を目的とする脱法信託,そもそも信託の成立要件を充足していない形だけの信託に対しては,後日税務当局からの指摘を受けてしまう恐れがあることに御留意ください。
当事務所では、相続税に強い税理士と提携し、相続・資産承継対策のご提案を致しておりますので、将来の備えに際し、是非お気軽にご相談下さいませ。