監査等委員会設置会社の内容と移行手続
2015.05.25更新
監査等委員会設置会社とは?
昨今のニュースで「●●株式会社が監査等委員会設置会社に移行」などとよく目にします。この「監査等委員会設置会社」とは、一体どのような会社なのでしょうか。
監査等委員会設置会社とは、平成26年会社法改正によって認められた、通常の監査役(会)設置会社とも、従来の委員会設置会社とも異なる、新たな会社の統治形態です。概要としては、取締役の職務執行や事業報告・計算書類を監査役として外部的に監査するのではなく、監査等委員会(その過半数は社外取締役である3名以上の取締役で組織されます)が内部的にこれを担うといったものです。
もっとも、委員会設置会社(上記会社法改正により「指名委員会等設置会社」と呼び名が変わりましたが、本稿では従来の「委員会設置会社」と言います。)とは異なり、取締役候補者を決定する指名委員会や、役員報酬を個別具体的に決定する報酬委員会を設ける必要はない点で委員会設置会社より簡素な会社形態とも言えます。
監査等委員会が会社法改正によって導入された背景として、通常の監査役(会)設置会社や委員会設置会社が、必ずしも会社側にとって使い勝手の良い会社形態では無かったことが挙げられます。
監査役は取締役会の構成員では無いため代表取締役の選解職権を有せず、その監査能力には一定の限界があることに加え、平成27年3月に金融庁及び東証によって作られた「コーポレートガバナンス・コード」により上場企業は最低2名以上の社外取締役の選任を事実上義務付けられたことで、最低2名の社外監査役(会社法上監査役会設置会社は最低3名で構成し、うち半数以上は社外監査役でなければならないという規制があるからです)と併せて社外役員を設置することへの過剰感・負担感が指摘されていました。
他方、委員会設置会社においては上述の指名委員会及び報酬委員会を含む3委員会の設置が義務付けられ、役員人事や報酬具体案を取締役会以外の機関に握られることについての抵抗感から、一部の大企業を除いてほとんど導入が進んでいません。監査等委員会設置会社は、このような監査役(会)設置会社と委員会設置会社の持つデメリットを克服し、かつ企業に対する監査能力を高めるためのいわば両者の中間的な会社形態と言えます。
監査等委員会設置会社を導入するメリットは?
監査等委員会設置会社を導入するメリットは、上記の監査役(会)設置会社や委員会設置会社の持つデメリットの裏返しと言えます。
すなわち、監査等委員会設置会社では最低2名の社外役員(社外取締役)を監査等委員として選任すれば設計でき(監査等委員会設置会社においては監査役は存在しません)、社外から人材を招くことへの負担感が緩和されます(なお、社内を含む取締役全体では4名以上が必要です)。監査等委員会では常勤の監査等委員を決める必要もありません。
また、監査等委員は会社の業務執行の妥当性監査まで可能であるとされているのみならず、取締役会の一員として取締役会で議決権を行使し、業務執行の決定に直接的に関与することも可能です。
他方、委員会設置会社とは異なり指名委員会と報酬委員会の設置は義務付けられていないため(ガバナンス強化の観点から任意で設置することは差し支えありません)、役員人事や報酬案に関する権限は依然として取締役会に留保されています。
監査等委員会設置会社に移行する具体的な手続きは?
それでは、一体どのような手続を踏めば監査等委員会設置会社となることができるのでしょうか。
監査等委員会設置会社を採用することにより直接的に要求されるのは①監査等委員会を設置する旨の定款変更、監査等委員会を構成する最低3名以上かつその過半数が社外取締役である取締役の選任、会計監査人の設置の3点ですので、これらを株主総会で決議する必要があります(既に会計監査人を置いている場合は改めて会計監査人を選任し直す必要はありません)なお、取締役会を設置していることが前提ではあります。
ただし①に加え、②会社法上監査等委員会を設置することで現任の取締役全員の任期が満了し、かつ監査役の設置が強制的に廃止されるため現任の監査役も任期が満了することになり、改めて取締役を改選しかつ退任する監査役の処遇を決めなければならないこととなります。
さらに③会社法上、監査等委員会の構成員である取締役とそれ以外の取締役は別枠で報酬を決議しなければならないとの要請もあるため、報酬議案についても改めて策定の上株主総会にて決議をし直す必要もあります。②により退任する取締役・監査役に退職慰労金を支払うのであればそれも決議する必要があります。
上記①~③を株主総会にて決議する必要があることに加え、④取締役会で改めて代表取締役を選定し直す必要があり(取締役全員が改選されたからです)、さらに中期経営計画等の経営基本方針やいわゆる内部統制システムを定めていなかった場合は、監査等委員会設置会社では会社法上でその決定を義務付けられますのでその決議も取締役会で行う必要があります。併せて、⑤取締役会規程を定めている場合は、規程中監査役(会)にかかる部分等を改訂する必要があるので、それも併せて取締役会に諮ることとなるでしょう。
さらに、⑥監査等委員会独自の規程も定める必要もあるでしょうし、⑦開示に関する対応及び⑧監査等委員会を設置した旨や取締役・代表取締役の選任・選定、監査役(会)設置会社の廃止の旨等、登記事項が多数生じますので改めて登記をし直さなければなりません。
このように、一口に監査等委員会設置会社の導入といっても、会社法上の手続だけでも様々なステップを踏む必要がありますので(上記に紹介した他にも、例えば定款案の内容や役員の任期など、会社法上の規制を考慮すべき事項は多数あります)、専門家とも協議の上、事前に十分な制度設計及びスケジュール案の策定を行う必要があるでしょう。しかし、上述のような導入のメリットに鑑みれば、検討の価値は十分にあると思われます。