事業の分離(スピン・アウト)についての支援サービス
2008.12.18更新
事業の分離(スピン・アウト)についての支援サービス
日本経済において、「選択と集中」が言われて久しいですが、会社法(商法)においては平成9年に行われた合併法制の簡易化に始まり、平成11年には株式移転・株式交換制度、平成12年には会社分割法制が創設され、平成18年の会社法制定ではこれら組織再編に関する法制の統一整備と三角合併の創設が行われたのはご存知のとおりです。
- 平成9年には、銀行に限った制度として「銀行持株会社創設法」が制定されました(現在は廃止されています)。
- 平成11年には、産業活力再生創設特別措置法が制定され現在に至っています。
これら会社法における組織再編法制ばかりに目が行きがちですが、組織再編のスキーム策定においては、会計や税務もにらみ検討しなければならないことに加え、各企業が持っている事業の契約関係の移転に係る煩雑な事務やコストにも目を配り、スキームに対するビジネス・ジャッジをしなければなりません。
更に、近年は農業協同組合法の改正(平成16年)、中小企業等組合法の改正(平成18年)、消費生活協同組合法の改正(平成19年、本年4月1日施行)に加え、いよいよ社団法人及び財団法人に関する新たな公益法人制度が本年12月1日よりスタートしました。
これらの法制度改革によって、株式会社だけでなく、社団法人、財団法人及び組合等についても、従来抱えてきた財産や事業性のある活動について、「選択と集中」が迫られてくる時代が到来してきたと考えられます。
そこで今回は、これまで株式会社制度/会社法だけに対し近視眼的に捉えられてきた組織再編のうち、特に事業の分離(スピン・アウト)についてマクロ的に解説します。
事業のスピン・アウトの切り口としては次のものがあります。
- 会社法上定められている典型的方式からのアプローチ(事業譲渡か会社分割か)
- 譲渡人(Seller)がスピン・アウトする事業の対価として受領する物からのアプローチ(金銭か株式か)
- Vehicleからのアプローチ(既存の会社を使うのか、新たに新設するか)
以上のアプローチから整理したものが次の表です。
既存の会社を利用する場合 | 新たに会社を設立する場合 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業譲渡 | 事後設立 | 会社分割 | 現物出資 | 財産引受 | ||||
吸収分割 | 新設分割 | |||||||
会社法条文 | 467条①1~3号 | 467条①5号 | 757条他 | 762条他 | 28条1号199条①3号 | 28条2号 | ||
売主・出資者 |
通常の対価 | 金銭 (売買) |
金銭 (売買) |
株式 金銭 その他 |
株式 金銭 その他 |
株式 | 金銭 (売買) |
|
元の地位 | 売主 | 売主 | 分割会社(※1) | 分割会社(※1) | 出資者 | 売主 | ||
取引後の地位 | 喪失する | 喪失する | 株主 | 喪失する | ||||
決議機関 | 株主総会(※2) | 株主総会(※2) | 株主総会(※3) | 株主総会(※3) | 定款 | 定款 | ||
検査役の検査 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 (※4) |
必要 (※4) |
||
買主側の会計 | 原則、purchase法により時価、例外的に持分poolingが可能。(※5) | |||||||
税 | 売主・出資者 (Seller) |
- | 適格組織再編税制により、課税の繰延べが可能な場合がある。(※5) | |||||
買主 (Purchser) |
法人の場合、減価償却資産について損金化が可能 | - | 法人の場合、減価償却資産について損金化が可能 | |||||
契約上の地位・権利義務移等転 | 債権の移転 | 債務者への個別の通知又は承諾が必要(民法467) | 債務者への個別の通知又は承諾は不要 | 債務者への個別の通知又は承諾が必要(民法467) | ||||
第三者への対抗要件具備 | 移転する財産ごとに個別の対抗要件具備が必要 | 原則として特段の行為なく対抗できる | 出資する財産ごとに個別の対抗要件具備が必要 | |||||
債務の移転 | 原則として債権者の個別の合意取得が必要 | 債権者への個別の合意取得は不要 | 原則として債権者の個別の合意取得が必要 | |||||
債権者保護手続 (公告及び通知) |
不要 | 不要 | 必要 | 必要 | 不要 | 不要 | ||
株主の買取請求権 | 有り | 有り | 有り | 有り | - | - | ||
不動産取得税 | 課税 | 課税 | 非課税 | 非課税 | 課税 | 課税 | ||
登記登録免許税 | 2% | 2% | 0.80% | 0.80% | 2% | 2% |
- (※1)会社分割で最も一般的である分社型で対価が株式の場合であれば、株主の地位を取得。
- (※2)原則として株主総会の特別決議が必要。 「簡易事業譲受」または「略式事業譲渡」(会社法468条)に該当する場合には株主総会の決議が不要となる場合がある。その場合であっても、重要な財産の処分として取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)が必要(会社法362条④1)。
- (※3)原則として株主総会の特別決議が必要。 簡易分割(会社法784条、805条)/略式会社分割(会社法784条、796条)に該当する場合には株主総会の決議が不要となる場合がある。その場合であっても、「重要な業務執行」として取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)が必要(会社法362条柱書)。
- (※4)「小額財産等」に該当する場合には、検査役の検査が不要となる場合がある。 前記検査役の検査が不要となる場合のうち、弁護士・公認会計士・税理士等による価額の相当性についての証明書については、当事務所が提携する公認会計士・税理士等にて対応いたします。
- (※5)当事務所が提携する公認会計士及び税理士にて確認いたします。
このようにして見ますと、スピン・アウトの方法として、一般論としては会社分割が有利であると思われます。
その大きな理由としては、機関意思決定のみで事業に伴う多数の契約関係を包括的に移転することができるからです。
一般事業会社の場合、後は会計及び税務面の観点から検討し、最終的なスキームに対してビジネス・ジャッジを行うこととなります。
ところで事業譲渡について、銀行、保険会社等の場合には、根拠法である銀行法、保険業法等において、契約の移転手続きにつき一般の会社と異なり、更に有利な手当てがなされています。これは、銀行の場合は預金者及び貸付先、銀行の場合は保険契約者及び被保険者との間に膨大な契約関係があるので、これら契約関係をスムーズにかつ一度に移転できることを目的とした特別な手当てがなされていると考えられます。これにより、一般事業会社と異なり、銀行、保険会社等は、会社分割と同様に事業譲渡等の手段でも膨大な契約関係を包括的に移転しかつ対抗要件も具備できるものとなっています。
一般の会社 | 銀行 | 保険会社 | |
---|---|---|---|
公告 | 会社法で必要な場合あり | 必要(銀行法34条) | 必要(保険業法137条) |
債権の移転 | 必要(民法467条①) | 上記公告のみで可(銀行法34条) | 上記公告のみで可(保険業法140条) |
対抗要件具備のための行為 | 必要(民法467条②等) | 上記公告のみで可(銀行法36条) | 上記公告のみで可(保険業法140条) |
債務の移転 | 原則債務者の個別の同意が必要 | 上記公告のみで可(銀行法36条) | 上記公告のみで可(保険業法140条) |
行政庁の認可 | 原則不要 | 必要(銀行法30条) | 必要(保険業法142条) |
一方、社団法人、財団法人、組合等(以下、組合等)の場合には、その根拠法で会社分割と同様の法制度自体が創設されておらず、特定の事業を分離したい場合には、
- 既存の組合等への事業譲渡
- 新たに組合等を現物出資で設立する
- 組合等を金銭出資で設立し、その組合等に対し事業譲渡する(設立後2年以内の財産移転の場合には、事後設立にも該当し得る)
- 組合等を金銭出資で設立するととともに定款にて財産引受を規定する
という方法など、複雑なスキーム作りを検討しなければなりません。
更に、組合等の根拠法では、上記の銀行法や保険業法のような債権債務の移転に関する特別な規定は用意されていないものが多く、大量の個別の通知事務と個別の契約の巻き直しについて多額のコストが発生しかねません。
従い、組合等が抱える事業の分離、スピン・アウトにはこうした点も踏まえて、事前に十分に検討したスキーム作りが必要です。
星野合同事務所では、以上のとおり多角的な視点から、各クライアント様の置かれている状況を踏まえた支援サービスをご提供できますので、是非ご相談ください。