TOP > ニュース&トピックスTOP > 法律&税制トピックス > 会社役員等の責任軽減規定 ~蛇の目ミシン株主訴訟判決から~

先日、蛇の目ミシン株主訴訟の判決が東京高等裁判所で出されました。元社長らに対して583億円という莫大な賠償を命じるもので、裁判所は元社長らの対応を「上場企業の取締役として稚拙で社会常識とかけ離れた対応だった」と厳しく非難しています。
近年、大企業による不祥事の発覚や株主の権利意識の高まりを背景に会社経営陣に対して経営責任を厳しく問い、数億円単位の多額の賠償を命じる判決が相次いで出ています。しかし、会社役員等の責任が大きくなればなるほど、役員等がそれを恐れるあまり任務を円滑に追行できなくなる危険性があり、これを回避するため平成14年5月1日に旧商法で導入されたのが「役員等の責任軽減規定」です。
ただし、任務懈怠責任によって生じる役員等の責任は
に分けられ、役員等の責任軽減規定は会社に対する責任についてのみ適用があります。
役員等の会社に対する任務懈怠責任は、総株主の同意により全額免除することができます。会社に発生した損害は、損害を被った会社、つまり株主の同意があれば責任を問わないとするものです。しかし、現実的には総株主の同意を得ることは非常に困難で、特に上場している会社などは不特定多数の株主全員が同意することはあり得ないと言ってもいいでしょう。
役員等が任務懈怠により会社に損害を発生させた場合、善意無重過失の場合に限り、
のいずれかの方法により下記最低責任限度額まで責任を免除することが可能です。
= 役員等の報酬等の○年分 + 役員等の退職慰労金等×○/在職年数
+ 役員等が有利発行新株予約権の行使・譲渡によって得た利益
○ → 代表取締役・代表執行役・・・6 取締役・執行役・・・4
社外取締役・会計参与・監査役・会計監査人・・・2
ただし、株主総会において可決された場合でも反対株主から免除の有効性について株主代表訴訟を提起される可能性があります。そのため、一次的には株主総会で免除の可否を判断するのですが、最終的には裁判所の判断に委ねられることになります。なお、免除後において当該役員等に対して退職金等財産上の利益を与える場合は株主総会の承認を得ることを要するなどの制限が発生します。
一定数以上の株主から異議があった場合に制限されるものの、予め定款に規定しておくことで事後の損害賠償責任を取締役会決議で免除することができるため、株主総会決議による免除に比べて機動的な判断が可能となり、取締役会で判断することで経営判断の妥当性を検証することは合理的でもあります。 なお、この規定による免除には監査役・監査委員の同意が不可欠であるところ、監査役設置会社または委員会設置会社に限られます。
現在、社外取締役等の重要性が改めて認識される一方、上記1・2の方法では免除の可否等の不確実性が残るため有用な人材の確保が難しくなるおそれがあることから導入されました。定款で定めた範囲内で責任限定契約で予め定めた額と最低責任限度額のいずれか高い額が責任限度額となります。
| 全部免除 | 一部免除 | |||
|---|---|---|---|---|
| 手続要件 | 総株主の同意 | 株主総会決議 | 定款規定に基づく取締役の過半数の同意または取締役会決議 | 定款規定に基づく責任限定契約 |
| 取締役の過失 | 故意・重過失も免責可能 | 軽過失のみ免責可能 | ||
| 監査役の同意 | 不要 | 監査役設置会社では総会への議案提出について必要 | 定款変更議案提出及び取締役会における免除議案提出について必要 | 監査役設置会社では定款変更議案提出について必要 |
| 対象役員等 | すべての役員等 | 社外取締役 社外監査役 社外参与 会計監査人 |
||
| 情報開示? | 不要 | 招集通知で必要 | 株主に対する通知または広告が必要 | 損害を知った後最初の株主総会で必要 |
| 最低責任限度額 | なし |
1.報酬等の法所定年数分(6or4or2年) 2.退職慰労金等を在職年数をもって除した額に所定数を乗じた額 3.有利発行新株予約権の行使・譲渡によって得た利益の額の合計額(※) |
||
※ ただし、定款規定に基づく責任限定契約の場合は上記金額と責任限定契約で定めた額のいずれか大きい額が最低責任限度額となります
この制度は平成14年5月1日前の行為については適用がありません。今回の蛇の目ミシン株主訴訟で問題となった元社長らの行為は昭和62年から平成3年頃までのものですので勿論適用外となります。しかし、583億円もの損害を賠償せよと命令されたところでその支払いは事実上不可能です。 責任軽減規定による役員等の損害賠償の範囲は主に役員等が会社から得た利益を基準としており、役員等がこれを負担することは可能であると言えるでしょう。会社の費用負担で勝訴判決を得ても実行性のないものであれば意味がなく、その意味で責任軽減規定を設けていることは株主にとってもメリットはあると考えられます。
株主が有限責任である一方、役員に無限責任を負わせるという現行制度の見直しが望まれますが、現時点では上記責任軽減規定、特に定款規定に基づく方法を予め定めておくことで、可能な限りのリスク管理をすることが必要でしょう。一方、上記3つの軽減規定に基づいて免除することができない責任があり、利益相反直接取引を自己のためにした取締役・執行役の責任がそれにあたります。この場合、免除をするには総株主の同意が必要となります。
役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは,これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことになります。また,役員等が次の行為を行った場合も同様で,役員等が善意無過失であることを立証しない限り責任を負うことになります。
| 役員 | 具体的行為 |
|---|---|
| 取締役・執行役 |
株式,新株予約権,社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要事項について虚偽の通知または当該募集のための事業その他の説明に用いた資料の虚偽記載または記録 計算書類,事業報告及び附属明細書,臨時計算書類に重要な事項についての虚偽記載または記録 虚偽の登記 虚偽の広告 |
| 会計参与 | 計算書類及び附属明細書,臨時計算書,会計参与報告の重要事項についての虚偽記載または記録 |
| 監査役・監査委員 | 監査報告の重要事項についての虚偽記載または記録 |
| 会計監査役 | 会計監査報告の重要事項についての虚偽記載または記録 |
なお,役員等の第三者に対する責任については会社に対する責任と異なり,その保護の目的が会社債権者等第三者ですから総株主の同意や軽減規定により責任の免除を受けることはできません。
役員等の任務懈怠責任による会社または第三者に対する損害賠償責任は他の役員等もその責任を負う場合は連帯債務となります。
役員等は任務懈怠責任とは別に次の責任を負うことになります。この責任は会社法上,役員等に特に負わせている責任で任務懈怠責任のような一部免除手続は適用されず,(3)を除き総株主の同意のみにより免除することができます。
| 挙証責任 | 一部免除 | 総株主の同意による免除 | |
|---|---|---|---|
| 利益供与 | 取締役・執行役が注意を怠らなかったことの立証をしなければ免責されない。 ただし,利益供与を実際に行った取締役等は上記立証をしても免責されない。 | × | ○ |
| 剰余金の分配 | △ 分配可能額を超過して分配された部分は免除不可 | ||
| 出資財産等 | × ただし,検査役の調査を経ている場合は免責 | ||
| 株式買取請求 | ○ | ||
| 欠損 | ○ |
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