星野合同事務所

養育費の履行確保に関する制度について

2008.08.01更新

養育費の履行確保に関する制度について

現在、離婚に伴う養育費の未払いが社会問題となっています。平成15年の厚生労働省の調査によると、離婚が理由の母子家庭で、離婚した父親から現在も養育費を受けている世帯は17.7%に留まっています。実に82.3%の世帯が、一度も養育費を受けたことが無いか、かつては受けたことがあったものの、現在は受けていない、という状況です。

もちろんこの中には、そもそも養育費の支払の取り決めをしていないケースも多数含まれていますが、養育費支払の取り決めをしたにもかかわらず、父親が支払いをしない、という場合が多々あります。

そこで、平成15年以降、数回にわたり法律が改正され、養育費の履行を確保する制度の充実が図られています。

以下、養育費の履行確保に関する制度をご説明します。

■履行勧告

古くからある制度ですが、平成15年の改正により、制度の適用範囲が拡がりました。家庭裁判所の調停や審判、判決によって定められた養育費の支払を支払義務者が怠っているときに、家庭裁判所において履行状況を調査のうえ履行を勧告し、支払を督促してくれる制度です。

申立の手数料は不要であり、書面でも、電話でも申立は可能です。 勧告には法的強制力はありませんが、裁判所からの督促であることから、かなりの効果が上がっているようです。

■履行命令

これも古くからある制度ですが、履行勧告より強力な効力をもっています。履行命令では、家庭裁判所が権利者の申立により、支払義務者に対し相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命令します。もし義務者がこの履行命令に従わない場合には、10万円以下の過料の制裁があります。 履行命令は強制力がありますが、申立がされる件数、実際に命令が出る件数ともごくわずかであり、ほとんど利用はされていません。

■強制執行

強制執行とは、支払義務者が養育費の支払をしない場合、義務者の財産を差し押さえ、換価して強制的に取り立てる方法です。差し押さえる財産とは、具体的には義務者の不動産、預貯金、給料などです。

ところが、以前の強制執行手続では、例えば相手方の給料を差し押さえる場合、毎月の養育費が滞る度に、その都度差押えをしなければなりませんでした。養育費は通常毎月数万円程度であり、そのために多くの手間と費用をかけなければならないのは非常に非効率的です。また、数か月分滞納した時点で差押えをしようとすれば、当然その間の生活を圧迫することになります。

このような実情を考慮し、平成15年以降、数回にわたり民事執行法が改正され、養育費等の債権を有している場合の特例が定められました。

(1)定期金債権の期限到来前の差押えの許容

上述したように、従前は養育費のような定期金債権は、履行されていない部分のみの差押えが可能でした。例えば、1月分の3万円の養育費の支払が無かった場合、一回の強制執行で差押えすることができる範囲は現在までに延滞している1月分の3万円のみであり、もし2月分の3万円も支払がなければ、改めて2月分も差押をする必要がありました。

改正後は、一部が履行されなかった場合、将来の部分についても一括して差押えできるようになりました。従って、例えば給料を差し押さえる場合、もし支払義務者が一度でも養育費の支払を怠れば、一度の強制執行手続により、最終の支払い時期まで毎月の給料に対して差押えが継続します。事実上、支払義務者は給料を天引きされ続けることになります。

(2)差押禁止債権の範囲の特例

改正前は、給料を差し押さえる場合は、原則としてその支払期に受けるべき給料の4分の3に該当する部分は差押禁止でした(給料の額により例外はあります)。簡単に言えば、毎月の給料の4分の1までしか差押えができませんでした。

改正後は、養育費のような定期金債権については、2分の1まで差し押さえることが可能になりました。これにより、差押えにより毎月回収できる金額が増えましたし、また、仮に他の債権者が給料を差し押さえた場合であっても、養育費は優先的に支払を受けることができるようになりました。

(3)間接強制

間接強制とは、義務者に心理的強制を加えて自発的な支払を促す制度です。具体的には、裁判所が養育費の支払をしない義務者に対し、一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告(決定)します。

間接強制は、本来、債務者の自由意志に干渉する側面があり、人格尊重の理念に反することから、利用できる場合はかなり限定されていました。しかし、養育費は受給者の日々の生活の維持に不可欠なものである、給料を差し押さえると支払義務者が職を失う可能性があり、結局支払がされなくなる恐れがある、裁判所が慎重に判断するため、支払義務者に酷な結果が生じることはない、等の理由により、この方法によることが認められるようになりました。

ただし、この制度は、直接強制のように義務者の財産を直接差し押さえるものではありませんので、間接強制の決定がされても支払義務者が自発的に支払わない場合、養育費や間接強制金の支払を得るためには、別に直接強制の手続をとる必要があります。